スペシャル・エディションの内容 「Revolver」に収録されている14曲は、プロデューサーのジャイルズ・マーティンとエンジニアのサム・オケルによって、ステレオとドルビー・アトモスで今回、新たにミックスされた。そしてアルバムのオリジナルのモノ・ミックスは、1966年のモノのマスター・テープを使用している。今回の「Revolver」の最新のスペシャル・エディションは全世界的に高く評価されている「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」「The Beatles」「Abbey Road」「Let It Be」のリミックス&拡張版のスペシャル・エディションに続くものである。今回の「Revolver」のリリースにあたっては、オリジナルの4トラックのマスター・テープを使用して、新たにステレオ・ミックスをおこなっている。オーディオはピーター・ジャクソン監督のウィングナット・フィルムズ・プロダクション所属で、数々の受賞歴を誇るエミール・デ・ラ・レイ率いる音響チームが開発した最新のデミックス技術の助けを借り、驚くほどクリアに音が前面に出てきている。スーパー・デラックス・コレクション(デジタル版とCD/LP版)では、アルバムのオリジナルのモノ・ミックスに加えて、レコーディング・セッションから28の初期テイクと3つのホーム・デモ、そして「Paperback Writer」と「Rain」、それぞれの新たなステレオ・ミックスとリマスターしたオリジナルのモノ・ミックスの4曲入りEPが収録される。アルバムの新たなドルビーアトモス・ミックスはデジタルのみで発売予定。
アートワーク 「Revolver」のスペシャル・エディションは、すべての形態でビートルズの長年の友人のドイツ人ベーシスト&アーティストのクラウス・フォアマン作のグラミー賞を受賞したオリジナル・アルバムのアートワークが楽しめる。スーパー・デラックスCDとヴィニール・コレクションに付属の美しいブックレットでは、ポール・マッカートニーの序文、ジャイルズ・マーティンによるイントロダクション、クエストラヴの心のこもった啓蒙的なエッセイ、ビートルズ研究家/作家/ラジオ・プロデューサーのケヴィン・ハウレットによる洞察に満ちたチャプターと詳細にわたる曲目解説をフィーチャー。また、このブックレットにはレアな未発表写真や、手書きの歌詞、テープ・ボックスや、レコーディング時のメモ書きなどの未公開画像、そして1966年に印刷された広告や、フォアマンのグラフィック・ノベル「birth of an icon: REVOLVER」からの抜粋なども収められている。
アルバム「Revolver」海外プレス・リリース ビートルズが1966年に発表した「Revolver」はすべてを変えたと言える。堂々巡りを続けるポピュラー・ミュージックの軸を外し、実験的でアバンギャルドなサイケデリック・サウンドの活気ある時代を導き入れた。「Revolver」は、文化という海に変革をもたらし、ビートルズ自身のクリエイティヴ面での進化においても重要なターニング・ポイントとなった。ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターは、「Revolver」を携えて、新たな音楽の海へと揃って出帆した。1965年12月に画期的なアルバム「Rubber Soul」をリリースし、その年のツアー日程をすべてこなした後、彼らは3本目のビートルズ映画となる予定だった「A Talent For Loving」の撮影をぎりぎりになってキャンセルした。このことが「Revolver」の製作に大きな影響を与えたと思われる。バンドのスケジュールから映画の撮影、サウンドトラックのレコーディングなどの予定が削除されたことで、彼らは「Revolver」のレコーディング・セッションの開始前に4か月の休暇を取ることができた。ジョン・レノンは、バンドがスタジオに入る数週間前に「一つ言えることは、次のLPは今までとはかなり違ったものになるはずってこと」と語っている。1966年4月6日、ビートルズはEMIスタジオ(現在はアビイ・ロード・スタジオ)のスタジオ・スリーに集まり、「Revolver」のためのレコーディング・セッションを開始した。プロデューサーはジョージ・マーティン。エンジニアのジェフ・エメリックと技術エンジニアのケン・タウンゼントが脇を固めた。
Tomorrow Never Knows 彼らは「Tomorrow Never Knows」で開始すると、怒涛の如くセッションを進めていった。この曲ではジョンの不思議なボーカル(回転するレズリー・スピーカーにマイクを繋いで録音した)や、画期的なテープ・ループ(ポールが“あ、あ、あ、あ、”と言っている声の速度を上げて、カモメの甲高い声のように加工した)にリンゴの轟くようなドラム・パターン、ジョージのタンブーラのドローン、それに逆回転のギター・ソロなどを合わせた。この「Tomorrow Never Knows」は、ビートルズ、そしてポピュラー・ミュージックを新境地へと駆り立てた。「Revolver」が1966年8月5日に発売される前のインタビューでポールは NME 紙に「僕たちがこれをやったのは、個人としては、みんなから“前に聴いたことがある”といつも言われるような音作りをすることにうんざりしていたからだ」と語っている。「Revolver」のスペシャル・エディションには、4月6日に行なわれたビートルズの「Tomorrow Never Knows」の最初のテイクと、正式なLPとして再度カットされる前に、少数のレコードにだけ使用されたモノラル・ミックスもフィーチャーしている。
Got To Get You Into My Life 翌日、ビートルズはスタジオ・スリーに戻り、「Tomorrow Never Knows」のレコーディングをほとんど終わらせて、「Got To Get You Into My Life」の最初のバージョンに取りかかった。スペシャル・エディションの“セッションズ・ワン”で聴けるように、この時にレコーディングしたものはリリースされたトラックとはかなり違うものとなっている。「Revolver」のスペシャル・エディションでは、この曲が最終的な形になる前の段階のバージョンをあと2つフィーチャーしている。リリースされずに終わったモノラル・ミックスと3本のトランペット、2本のテナー・サックスにハイライトを当てたスペシャル・ミックスである。
Love You To ソングライティングをする上でジョージが大きく影響を受けた音を「Love You To」で聴くことができる。この前年、インド音楽に対する興味をより深めたジョージはシタールの弾き方を学び、その過程でラヴィ・シャンカールと出会った。以来、ラヴィはジョージの親しき友となり、時には音楽のコラボレーションをする仲になった。ビートルズは「Love You To」を4月11日にスタジオ・ツーでレコーディングを始めたが、その日はちょうど「From Me To You」がUKでリリースされてから3周年目にあたる日だった。「Revolver」のアルバムの素晴らしさを鑑みて、これらの曲の間がわずか3年間しかないということは、バンドが短期間にクリエイティヴ的に驚くような速さで進化していったことを表している。ジョージは後に「この曲はシタールで書いた初めての曲のひとつだった。ベーシック・トラックにシタールとタブラを使うことを意識して書いたんだ」と語っている。ジョージのシタールとボーカル、ポールのタンブーラとボーカル・ハーモニー、そして大学生だったアニル・バグワットのタブラという編成で、曲の入り組んだアレンジはいくつかのテイクを経て形になっていった。オーバーダブでポールは追加のボーカル・ハーモニーを入れたが、それらはリリースされたバージョンでは使われなかった。今回はその部分がテイク7のミックスで聴ける。「Revolver」のスペシャル・エディションでは、同曲のテイク1と、以前からの資料にはなかったが、つい最近見つかったジョージがシタールを弾き、ポールがタンブーラでリハーサルをしている音源もフィーチャーしている。
Taxman アルバムのオープニング・トラックの「Taxman」は、4月と5月に行なわれた3回に亘るスタジオ・スリーでのセッションの間にレコーディングされた。この曲もアルバムに3曲収録されているジョージのナンバーのひとつだ。「Taxman」でジョージは、当時の“大金持ち”に対する英国の税率(90%)への不満を表明している。そしてこの歌ではテレビの「バットマン」の主題歌へのオマージュも登場する。4月20日に行なわれた12時間のセッションでビートルズは、「And Your Bird Can Sing」の最初のバージョンをレコーディングし、ミキシングした(今回このスペシャル・エディションでは、この曲の最初のバージョンのテイク2のレコーディング2種類と、バージョン2のテイク5を収録)。その後、彼らは「Taxman」のレコーディングを始めた。彼らは翌日もこの曲に戻り、ジョージの基礎となるギター、ポールのベース、そしてダイナミックなインド音楽のラーガ・スタイルのギター・ソロ、そしてリンゴのドラムとカウベルをレコーディングした。「Revolver」のスペシャル・エディションでは、リリースされたバージョンとは違う歌詞をジョンとポールがファルセットで歌っているバッキング・ボーカルが聴けるテイク11を収録している。
She Said She Said ビートルズの「Revolver」の最後のレコーディング・セッションは、1966年6月21日の夕方から、22日の明け方まで続いた。バンドが夏のワールド・ツアーのためにミュンヘンに発つわずか1日前だった。「She Said She Said」の歌詞は、ビートルズがロサンゼルスで体験した、ハイになったトリップでのハプニングの記憶がモチーフになっている。断片的で未完成だった曲をジョージの助けを借りてまったく新たな曲として完成させたジョンは、セッションの終了時間が迫る中で、リハーサルとレコーディングを率先して仕切った。「Revolver」のスペシャル・エディションでは、この曲のジョンのホーム・デモと、バッキング・トラックのリハーサルの模様を収めたテイク15が収録されている。このテイク15には、曲のアレンジを相談するビートルズのメンバーたちの軽快な会話も収録されている(この曲のアレンジに関してはのちに作曲家であり指揮者のレナード・バーンスタインが“独創的”で“素晴らしい”と称賛した)。6月22日の午前4時にはビートルズが「She Said She Said」を完成させて「Revolver」のレコーディング・セッションは終了した。アルバムの最終的なモノラル、ステレオ・ミックスもその晩のうちに完成し、翌日にはビートルズは再びツアーに乗り出した。次に彼らがアビイ・ロードに戻ったのは1966年11月。「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」のレコーディング開始時だった。
発売後の反響 1966年8月5日に発売された「Revolver」は全英アルバム・チャートで7週間1位を記録し、「Eleanor Rigby」と「Yellow Submarine」の両A面シングルは8月から9月にかけて4週間全英シングル・チャートで首位に立った。米国では、キャピトルが11曲入りの「Revolver」を発売し、米ビルボードのアルバム・チャートで6週間1位を獲得した。残り3曲「I’m Only Sleeping」「And Your Bird Can Sing」「Doctor Robert」は、6月にキャピトルが北米でリリースしたコンピレーション・アルバム「Yesterday And Today」のセッションから抜粋されたものであった。このアルバムのスリーブは、もともと悪名高い“ブッチャー・カバー”で印刷されていたが、発売前の論争により、キャピトルは100万枚以上のモノラルとステレオのLPを回収し、ビートルズがトランクに集まっている無難な写真で再カバーすることになった。